大阪府保険医協会・勤務医フォーラム

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前編 過労死弁護団全国連絡会議代表幹事 松丸 正弁護士との交流会(2/23)
自らの労働環境を見直そう―医師の過労死の現状と労働法規

弁護士

松丸 正 氏(大阪弁護士会所属)

松丸 正
略 歴
1946年生まれ
東京大学経済学部卒
過労死弁護団全国連絡会議代表幹事(現)
株主オンブズマン事務局長(現)
現在4件の医師の過労死に関する事件を担当

 勤務医部会は2006年末に行った「第2回勤務医の労働環境実態と意識に関する調査」では勤務医師の長時間労働が身体的・精神的に疲弊を来し、勤務医を脅かしている実態を明らかにしました。勤務医部会はこの実態を広く社会にアピールしているところですが、一方で「医師不足」「病院倒産」「診療科閉鎖」「医療事故」など医療崩壊は日々進行し、大きな社会問題となっています。また、三六協定を守った働き方では現在の医療が成り立たないという長期にわたる矛盾が浮かび上がってきました。勤務医部会では調査結果を受け、過労死問題を扱う弁護士の立場から医師の働き方についてお話を聞く機会を得ました。その概要を前編と後編の2回に分けて掲載いたします。


20年前に「過労死110番」を大阪で初開催

 私は1981年7月に、大阪で「大阪急性死等労災認定問題連絡会」を結成しました。
その当時は、医師の側でこの過労死問題に対する大きな関心があり、西淀病院の田尻先生、東京の上畑鉄之丞先生たちが、過労死の問題は労働者の健康問題として非常に重要な問題だと訴えていました。ただ、当時はまだ過労死という言葉がなくて、急性死という名前を使っており、マスコミもどうこの問題を社会に伝えていいか分からなくて、「ぽっくり死の連絡会」などと訳の分からない報道をされたことを覚えています。連絡会は医師と弁護士とご遺族と労働組合の構成で、過労死の問題を考えていこうということでした。しかし、その時点ではまだ労災に認定させる取り組みで、しかも当時は全国で年に10数件でした。非常に狭い門で、遺族の救済はほとんどされることのない時代でした。

 83年頃、田尻先生や上畑先生の書かれた「過労死」という本が出版され、過労死が社会的にようやく認知されるようになってきました。ですから、過労死問題は、まず医師が最初に石を投げて、それを弁護士が受けとめ、遺族や労働組合に広がっ ていった運動の展開をしました。

 しかし、大阪連絡会を作りましたが、当時はほとんど相談がなく、1年か2年にようやく1件認定が取れるといった時代がずっと続きました。このため、この問題は、例えばタクシー、トラック、夜勤交代制などの特殊な現場における極めて個別の労働者、いろいろ身体的なハンディを抱えた個別の労働者に起きる問題で、一般性・社会性・普遍性がないのかと随分悩んだ時期がありました。しかし、これは大きな問題であり、一般性・社会性・普遍性があるかどうかを世に問うてみようと、「過労死110番」を1988年4月に大阪で初めて行いました。すると、製造業の方をはじめとして驚くべき労働実態が寄せられ、大きな反響がありました。

労働行政を変えた遺族の運動と裁判闘争

 さて、医師の労働時間・勤務条件を考えるとき、「人の健康、命にかかわる精神的緊張の高い」という質的な過重性があります。しかも、それだけではないです。厚生労働省は、業務の質的過重性より量的過重性を今の過労死の認定基準で非常に重視しており、ある意味では労働時間絶対主義と言われるような認定です。それと並べて医師の業務上の負荷要因として評価しなくてはいけない点として、精神的な緊張度の高い業務であり、不規則な夜勤交代勤務であること、呼び出しの多い勤務であることなどを具体的に挙げています。そういう、精神的緊張が高く、夜間交代制があり、呼び出しがあって、非常に不規則性がある質的な過重性の問題があるにもかかわらず、極めて長時間の勤務があるということが、医師の勤務を考える上で大事だと思っています。勤務の量的な過重さは、私が言うよりも皆さん自身が仕事の中で感じていることなので、当たり前のことかもしれませんが、私が最初に医師の過労死問題を取り組んだのは、ある市の医療センターの内科部長の過労死事件でした。そのセンターの他の先生に調査に協力してもらおうと思い、同僚の先生に勤務状況をお聞しましたが「医者はこんなのは当たり前に働いているから、こんなのが過労 死になったら、医者の勤務条件が日本では成り立たないよ」と言われ、逆に叱られたことがありました。

(1)厚労省の勤務状況調査結果でも驚くべき実態が明らかに

 先ほどの内科部長の勤務していた時間が厚生労働省の「医師需給に係る医師の勤務状況調査」(2006年の調査)にも表れています。医師の勤務時間を見る場合に、宿直時間や日直時間が入っているか入っていないかを気をつけないといけません。こ れが厚生労働省の調査では、それも入った時間だと言っていますが、そのアンケートに答えた医師自身がそれを勤務時間として認識していたのかどうか疑問です。最高裁の判例からすると、一人勤務の警備員が宿直室で仮眠している時間も勤務時間です。いずれにせよ、この調査は一応、宿日直も含めた勤務時間だと言っていますが、1週間当たりの勤務時間が常勤医師については、全体で63.3時間±20.2時間で、最大で152.5時間です。152時間を働いた人はどうやって働いたのかと思いますが、こういう結果が出ています。男性が63.8時間で、女性も60.6時間が平均です。その他にも数多くの調査がありますが、大体同じような結果が出てきています。

 診療科別の1週間の勤務時間を見ると、予想されるように産婦人科の常勤医師が1週間当たり69時間で、小児科医が68.4時間、外科医が66.1時間となっています。医師の勤務を調べる中で、当直明け、昼間の勤務があって、宿直があって、翌日の勤務は当然ないと思っていましたら、当たり前のように皆翌日勤務があります。36時間連続勤務を当たり前のようにやっているのは、過労死の問題をやっている弁護士としても驚きました。

(2)過労死・過労自殺ラインを超えた勤務医の平均的勤務時間

 この時間がどういう時間なのかを考えてみたいと思います。過労死・過労自殺についての勤務時間に1つのラインがあります。言い換えると、過労死ラインと呼ばれる勤務時間のことです。厚生労働省は、これを超えた場合は原則として業務によって発症したものとして、脳・心臓疾患については認める基準を持っています。 それをひと言で言えば、これも労働時間絶対主義です。1つの基準は、発症前1ヵ月間(30日間)に100時間を超える時間外勤務があるかどうかです。そして、発症前の1ヵ月間に100時間なくても、発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、月平 均80時間を超える時間外勤務があれば、原則としてその仕事の中身如何を問わず全部認めるということです。仕事の中身如何を問わないのはおかしいですが、発症前2ヵ月ないし、6ヵ月というのは、いずれの時間でも1ヵ月の平均で80時間を超えればいいとなっています。つまり、1ヵ月目は50時間しか時間外勤務がなく、2ヵ月目も60時間しかなくても、3ヵ月以後に100時間が続いたら、平均したら月80時間を超えます。そうするとこれは業務上です。6ヵ月目にほとんど残業がなくても、 5ヵ月間で計算して超えたらいいです。どこかの時間を超えたらいいという考え方です。しかし、時間外勤務が月平均80時間というのは、勤務時間が週60時間以上の勤務で超えてしまいます。ですから、勤務医の平均的勤務時間は、完全に過労死ラインを超えています。お医者さんが脳梗塞や心疾患を発症したら、ほぼ間違いなく業務上として認められることになります。

 この基準は2001年にできた基準です。過労死問題連絡会ができた81年当時は、災害主義という考え方でした。発症の当日あるいは前日に何か災害的なできごとがなくてはいけないという基準でした。災害主義という考え方が1987年に発症前1週間 主義、発症前1週間の業務の過重負荷を考えることに改正され、そして01年に、ようやく6ヵ月間の蓄積疲労を認めるようになりました。ですから、医師の側から1982年に田尻・上畑らによる過労死という本が出ましたが、行政の側は過労死という言葉をこの時代は最後まで使いませんでした。2001年に6ヵ月の蓄積疲労を認める時点で、ようやく過労死という言葉を行政サイドで認めることになったわけです。そして特筆すべきなのは、認定基準がこうやって変わってきたというのは、行政側が自ら変えてきたのではありません。遺族が行政の勤務外の認定に対して、裁判を起こして最高裁判所で災害主義という考え方はおかしい、少なくとも1週間位の間隔で過重負荷を見るべきだということで勝訴、行政もそれにあわせて、1週間主義に変えていったのです。さらに、その最高裁判所で、長期間の過重負荷も当然発症に影響があるのだから、長期間の蓄積疲労とみるのは当たり前という判例が重なる中で、行政も認定基準変えていきました。いわば、遺族の運動、裁判闘争の成果が戦後の労働行政を変えてきた少ない分野の一つだと私は自負しています。

(3)日本に多い灰色の労働時間

 時間外労働が月80時間とは、どれくらいの勤務かと言いますと、一般の労働者で定時が5時に終わるのでしたら、8時くらいまで残業をして土曜日も出勤するくらいです。毎日3時間×22日で66時間です。そして土曜日8時間× 4日で32時間で合計98時間です。土曜日が隔週出勤でも82時間です。ですから、日本の労働者の比較的当たり前の働き方の基準でもあるわけです。ただ、奥さんに「あなたのご主人はどれくらい勤務していましたか」と聞いても、返ってくる答えはきっと給与明細に載っている残業時間だと思います。そうすると「夫は月40時間の残業時間です」と言うことになり、ほとんどの労働時間は隠れてしまいます。

 見えない労働時間、灰色の労働時間が日本の労働現場にはたくさんあるのです。ほとんどの企業では、残業時間は予算管理をされています。この部においては何時間の時間外手当の配分をする。そしてこの部からこの課に対しては何時間、そしてこのチームには何時間という形になってきます。予算管理で初めから時間が決まっているのです。例えば、月45時間を超えてしまうとそれ以上は付けるなという暗黙の了解が社内にあるのです。あるいは、それを超えて付けてしまうと、「うちの社の中では月45時間で仕上げるのが当たり前なのに、あなたが60時間・70時間をやるのは、あなた自身の能力が足りない」と人事考課上の不利益な評価をされてしまう訳です。

 もう一つは、職場の中で次第に労働時間規制が厳しくなってきました。そうすると持ち帰りの残業が出てくるのです。昔から風呂敷残業というのはありましたが、持ち帰りの仕事の多い業種で一番はっきりしているのは教師です。1時間や2時間の残業時間で後はみんな持ち帰って採点をするし、プリントも作るし、生徒に連絡もしているのです。文部科学省の調査でも持ち帰り残業は平均2時間近いです。それを入れて計算すると、教師も過労死ラインで働いている業種の1つです。過労死については労働時間主義なので認定基準そのものがクリアです。基礎疾病については、厚生労働省の認定基準となり、特に裁判所の判例はあまり重視していません。例えば、心筋炎や心筋症、これも症状が安定している限り、あるいは直ちに発症に至るという状況でない限り、発症前の労働時間が認められれば、認定されています。

(4)医師の長時間勤務を生み出す背景―その1【三六協定】

①労働基準法の原則 1日8時間、週40時間
 お医者さんの労働現場には、労働基準法がないと痛感します。労働基準法の立場 からすれば、医師の労働現場は完全に壊れています。

②三六協定
 労働基準法の原則は、1日8時間、週40時間が原則ですが、これを超えて時間外労働や休日労働をさせるには、三六協定、即ち労働基準法36条に基づく時間外延長についての協定を結ばないといけません。この協定なしに残業をさせると、使用者側は6ヵ月以下の懲役か30万円以下の罰金となっています。ですから、この三六協定によって、無制限な残業に歯止めをかける制度なのです。この三六協定は厚生労働省の告示で原則は月45時間、年間360時間等の限度時間が決まっています。しかし、特別条項があって、特別な事情がある場合は、これを超えて時間外労働をさせることもできます。


1)厚労省告示の範囲の三六協定→守られないことを前提とした協定

 医師についての三六協定を調べてみました。今は情報公開で、三六協定については情報公開請求によりそれを得ることができます。例えば、市立札幌病院の場合、「時間外労働・休日労働に関する協定届」ということで、過半数を組織する労働組合と病院の院長の間で結んだ協定です。労使協定ですから、労働組合がハンコを押さないと残業させることができないわけで、労働組合がこれを上手に使うと合法的なストライキができます。所定労働時間しか働かないという非常に大きな武器と成り得るのですが、今の労働現場ではほとんどこれが活用されていません。例えば、この市立札幌病院のケースでは、残業時間として1ヵ月45時間・1年で360時間と当たり前のことが決められています。この病院は、医師が21名です。医師も含めてこの時間ですることを決めた三六協定ですが、この三六協定で医師が勤務できるはずがありません。ですから、これは厚生労働省告示が定めている限度時間を形式的に決めたものです。しかし、お医者さんについては守れないだろう、守れないけどいいという割り切り型の三六協定です。要するに、守られないことを前提にした協定です。

2)救急時、年1800時間、月180時間もの時間外勤務を認めた協定

 次の例は、日赤の和歌山センターの三六協定です。これは、3年ほど前のものですが、一番下に特別条項があります。ここに、「ただし、救急患者の処置及び緊急手術の必要が生じた場合は労使の協議を経て、1ヵ月につき180時間1年につき1800 時間までこれを延長することができる。」と書いています。しかし、緊急ではなく当たり前のようにこういう事態が生じるので、常態的に特別条項が生きています。ただし、最近この病院は1ヵ月150時間、年間960時間に若干改善していますが、実態 に合わせようとしたら、過労死ラインをはるかに超えてしまいます。1ヵ月180時間といえば、過労死ラインの2倍以上になっています。これは、正直な協定だと思います。医師の勤務実態に合わせようとすると、こういう協定にならざるを得ないのです。

3)三六協定から医師の除外、三六協定なしは労働基準法違反で刑事罰

 一番多いのは、医師については三六協定を作っていないところが圧倒的です。先ほど述べたある市の医療センターもそうでした。三六協定届書を取り寄せようとしたら、「ありません」と回答が来ました。そもそも時間外労働・休日労働の歯止めの仕組みそのものが機能していないのが、医師については一番問題です。

(5)医師の長時間勤務を生み出す背景―その2【不払残業】

 医師について、時間外勤務について割増賃金が払われているケースは、ほとんど聞いたことがありません。それは、賃金センサスという厚生労働省の統計にも表れています。厚生労働省が毎年どの程度の賃金が払われているかを統計にしています。職種別の給与がどの程度あるからということで、職種別に定めた表ですが、医師は平均年齢が39.9歳、勤続年数4.7年、超過実働時間数は月10時間となっています。
なぜ、10時間なのかと言えば、この統計は事業主調査だからです。病院に医師の超過勤務手当を払っているかを聞いたものです。ほとんど超過勤務を払っていませんので、10時間ということになってくるのです。厚生労働省の調査では、週63時間の勤 務時間で、月では90時間の時間外勤務です。その差はまさに不払残業になってしまいます。

 この問題について、県立奈良病院の産婦人科の医師が裁判を起こしています。この判決がどのように出るかで、影響が大変大きいものになると思います。

(6)医師の長時間勤務を生み出す背景―その3【宿日直勤務】

 労働時間と言った場合、宿直時間も原則として労働時間です。

 厚生労働省が定めた宿日直についての許可条件(資料A)を満たしていれば、労働時間、勤務時間としなくてもよいことになっています。多くの病院では、宿日直について、監視断続労働の許可を取っている病院もあると思いますが、許可を取っ ていれば、厚労省の考えでは実際に患者の治療に当たった時間だけを実労働時間として評価をすればよいのです。それ以外は、労働時間としてカウントしなくていいことになっています。しかし一方では、警備員さんが一人で勤務している。宿直勤務で夜中ビルの中を2・3回巡回する。それ以外の時間は仮眠をしている場合、その仮眠をしている時間は労働時間かどうかが最高裁判所で争われました。結果は、何かことがあったら、すぐに対応をしなければならない時間なのだから仮眠時間も含めて全部勤務時間だという判決でした。ですから、医師の宿日直勤務時間は、最高裁判所の裁判になれば、間違いなく勤務時間として全部評価されると思います。宿日直勤務中に緊急患者に対して医師として対応をしなければいけないということを前提で、宿日直をしますということを言ったら、厚生労働省は、本当は許可は出せないのです。

 岩波のブックレットで2月末に「壊れゆく医師たち」が出ました。小児科と産婦人科の事件、関西医大の事件、私が報告した内容の4つが載っています。それも参考にしていただきたいと思います。

 ※また、労働時間等に関するご相談はまず保険医協会へ。松丸弁護士の助言もい ただきます。
 ※次号・「後編」で医療の崩壊をくいとめるにはどうするか、その苦悩と展望を座 談会形式で掲載いたします。

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